「翻訳新世紀」

既にしばらく前からアップされていますが、asahi.com中の〈秋の読書特集〉として、「翻訳新世紀―新訳で文豪を楽しむ/時を超え、あの時代に―歴史・時代小説」というコーナーが組まれていますが、この中で本論系教員でもある堀江敏幸先生が、野崎歓訳『赤と黒』について書評を書かれています

 ナポレオンの『セント=ヘレナ日記』を愛読するジュリヤンは、とにかく速さの人である。頭の回転も行動も、並はずれて速い。こうすべきだと考えたことは、すぐさま実行に移そうとする。
 だから日本語にも、疾走感と、ジュリヤン本来の弱さに一歩先んじてそのほころびを押さえうるような、やわらかく弾むリズムが求められるのだが、今回の野崎歓訳は、先達の簡潔流麗な訳文の路面をさらに整備した滑らかなもので、主人公のうちの脆さと暗さを壊すことなく、前へ前へとひっぱっていく力がある。

と、その「速度」感に目を留めて『赤と黒』の新訳を書評されています。また、今週土曜日に早稲田で講演を行われる若島正さんの『ロリータ』新訳について沼野充義さんはその「正確化」と「現代化」について述べつつ

 若島訳のロリータはもはや、男の欲望の対象としてのきれいなお人形さんだけの存在ではない。「ムカつく」「あの子ってキモいのよ」「そんじゃね」といった言葉を平気で使う生身の現代っ子なのだ。このような現代口語の使用については賛否両論あるだろうが、いずれにせよ、この画期的な方針によって、登場人物像が書き換えられ、作品の印象もかなり変わってくるに違いない。

と書かれています。他にも、話題の新訳『カラマーゾフの兄弟』を翻訳された亀山郁夫さんの記事、前期に早稲田で講演をされた奥泉光さんによるカフカ『変身』や、論系で前期に授業を持たれていた野谷文昭先生によるセルバンテスドン・キホーテ』の記事など、多彩な記事が掲載されています。

赤と黒 (上) (光文社古典新訳文庫 Aス 1-1)

赤と黒 (上) (光文社古典新訳文庫 Aス 1-1)

ロリータ (新潮文庫)

ロリータ (新潮文庫)