映画2本。「長江哀歌」と「サッドヴァケイション」

長江哀歌チラシ

現在上映中の映画で、とりあえず「今見ておくといいかも」と助手が思う2本を紹介します。
「長江哀歌」
中国の映画監督、ジャ・ジャンクーによる一作。三峡ダム建設により水没してしまった町・奉節に、そんな経過は知らずに16年前に別れた妻と子を探しに来た男。そしてもう一方で、同じ町にやはり2年前音信不通になってしまった夫を探しにきた妻。2人とも奉節で暮らしはじめるが…というようなあらすじ。
まず言えるのは、デジタル撮影にしてこれほどの映像の質感を生みだすだけの、撮影のクオリティの高さ。変わりゆく町の解体現場、労働者たちの肉体、雨や霧の輝きやくぐもりが(思わず「レンブラントのような」と口に出してしまいかねないほど)丹念に撮られています。そしてところどころ挟まれるシュールでユーモラスなカット。ストーリーも一筋縄ではありません。特に、北野武あたりの映画のテイストが好きな人にはオススメできる映画でしょう。
現在、中国といえば、発展する資本主義と環境破壊や食の問題がセットになって報じられています。ですが、そのイメージの裏側で起こっていることを考えるためにも、ダムの下で変貌する風景の様子を淡々と、しかし粘っこく撮ったこの映画に身を浸しておくことはムダな体験ではないはずです。
「サッドヴァケイション」
青山真治監督。監督の「Helpless」「ユリイカ」といった作品の続編といえる映画。あらすじは以下の通り。

北九州市若戸大橋のたもとにある小さな運送会社。社長の間宮は、かつてバスジャック事件の被害にあった梢のほか、様々な理由から行き場のない人たちを住み込みで雇っていた。ある日、妻、千代子がかつて捨てた男との間に出来た息子の健次が会社に現れた。千代子は健次と、妹分で知的障害者のゆりを家に住まわせ、間宮はそれを快く受け入れた。一見、楽しげに働くフリをしながら、健次は母への復讐を狙っていた。(goo映画より)

いろいろな観点があると思いますし、正直ストーリーの運びや演技に多少の疑問を感じる点もないわけではないのですが、これは個人的には「車」、それもトラックの話として見ましたね。不法移民を運ぶトラック、主人公が身を寄せる運送会社のトラック、クラブの運転手や運行代走業など、相当「車」にスポットが当てられた映画です。特にオダギリジョー浅野忠信が共にトラックで野原を行く画は美しい。物語が主題のようでありながら、実はある種のロード・ムービーの系譜を引いているのでは…という点において興味深い映画だと思います。中上健次の小説や、監督本人の小説と併せて見ると、一層いろいろと見えてくる映画でもあるでしょう。

枯木灘 (河出文庫 102A)

枯木灘 (河出文庫 102A)

サッド・ヴァケイション

サッド・ヴァケイション